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2018-11-06

シンガポールに生きる女性たち:Asia Skubisz(アーシャ・スクビシュ)

シンガポールで出会った様々な女性の生き方をご紹介するインタビュー”シンガポールで生きる女性たち”。

Asia Skubisz(アーシャ・スクビシュ)さん 33歳 
ポーランド出身・シンガポール在住 
■職業・肩書き:Founer and CEO at Vosego ■これまで住んだことのある国(都市):ポーランド・イギリス・アメリカ・日本・シンガポール ■話す言語:ポーランド語・英語・日本語 ■家族構成:シンガポール人のだんなさまと、今年生まれた息子ひとり

今回お話をうかがったのはAsia Skubiszさん。ポーランド出身で、大学時代に日本語を勉強していたこともあり、日本での留学経験もあり、また新卒でのキャリアのスタートは日本でした。日本でベンチャーキャピタル、そして大手アパレルブランドでの経験を積んだのちに、日本の会社からの駐在でシンガポールに移住。2017年に自身の会社をシンガポールで起業し、また同じ年に妊娠が発覚。起業と出産をほぼ同じタイミングで成し遂げたという女性です。そんなAsiaさんに、これまでのキャリアのこと、起業のきっかけ、そして現在のお仕事と子育てをどう両立させているか、などについてお話をお伺いしました。

現在のお仕事のこと

Mana(インタビュアー):Asiaさん、今日はお時間をありがとうございます。まずは、現在のお仕事についてお話をお聞かせいただけますか。

Asia:はい、2017年の5月にシンガポールで起業をして、現在はVosegoのFounder & CEOとして仕事をしています。Vosegoでは、現在子供向けの教育玩具を開発して、主にシンガポールとアメリカで販売しています。私たちのプロダクトの玩具は、クラシックミュージックに関わる玩具です。有名な作曲家をキャラクター化させたぬいぐるみなのですが、中に機会が入っていて、押すとクラシックミュージックが流れます。ポーランドは、有名なクラシック音楽の作曲家の存在が身近にあったこともあり、このアイディアにたどりつくひとつのきっかけにもなりました。子ども玩具として、また出産を予定している友人のプレゼントなどに購入してくれる方がほとんどです。また子供向けのおもちゃではありますが、家族で楽しんだり、大人も楽しむことができるようになっています。

Mana:このプロダクトのデザインから実際に製品ができあがる工程も、すべてお一人でなさったのでしょうか。

Asia:そうですね。コンセプトを考えるところから、デザイナーと相談しデザインを決めて、それから製品をつくってくれる中国の工場を探し、何度もテストやサンプルの制作をしてフィードバックをしながら、パッケージを含めた完成商品にするところまでのすべてをゼロからひとりでやりました。もちろん、コンサルタントを雇ったり、外部に委託することをできたとは思うのですが、そうすると余計なコストもかかるので。自分でできることは極力自分でやろうとした結果、全ての工程を一通り自らすることになりました。おそらく多くの起業家の方がそうしたプロセスを経験されるのだとは思うのですが。

Mana:そうだったんですね。製品はすでにシンガポールと、米国でも販売していると伺いましたが、なぜ米国だったのでしょうか。

Asia:米国はE-commerceの市場が世界で一番大きい国です。せっかくならばその大きなマーケットに自分の商品を流通させたかったということがひとつ大きな理由です。またアメリカでのE-commerceの場合、Amazonが最大手ですが、彼らの倉庫に商品を送れば、注文が入った後のロジスティクスなどはすべてAmazonで対応してくれます。また米国ではおもちゃに関する輸入の税がありません。そうしたこともあいまって、米国でも販売をすることになりました。

Mana:起業されてから一番嬉しかったことや、やりがいを感じるときってどんなときでしょうか。

Asia:まず最初に大きな達成感があったのは、パッケージを含めた完成版の商品ができたときですね。本当にゼロから自分でデザインして、工場を探して、、とやってきたので、いろんな工程を経て完成版が手元に届いたときは、とても大きな達成感がありました。そのあとは、やはり自分のおもちゃが消費者に届いて、喜んでもらっているのを見たときでしょうか。最初のお客さんは私の直接の友人がほとんどでしたが、いまではそうではない一般の方にも多数購入いただいているので、そうした方々に喜んでいただいているのを見るのは、とても嬉しい瞬間ですね。

大学卒業後のキャリアは日本でスタート

Mana:起業される以前は、会社員としてお仕事をされていたと伺いました。また新卒でのキャリアは日本でスタートされたとも。その時のことを少しお聞かせいただけますか。

Asia:はい、大学での専攻が日本語だったこともあり、学生時代に日本への留学経験もありました。そんなことから、せっかくならその勉強したことを実社会で使って見たいと思い、日本で就職をすることにしました。最初に就職をしたのはデジタルガレージというベンチャーキャピタルに入りました。日本のいわゆる”新卒採用”の枠で入社したのですが、外国人は私ひとり。日本の新卒の研修や、オフィスの掃除なども新卒がするといった、日本社会独特の慣習も経験して、正直最初は戸惑いましたが、よい経験ができました。

Mana:そのあと、もう1社日本の会社でお仕事されたんですよね。

Asia:はい、前職の関係でお誘いをいただいたことがきっかけで、ユニクロに入りました。当時ユニクロはグローバル展開はいよいよこれから、というような状況で。ただ日本の中で最もスピード早く成長している会社のひとつでした。またこれからグローバル化に際して外国人の社員も多く採用いきたいというようなタイミングでした。日本の大きな会社も一度は経験して見たいなと思っていたのもあり、入社を決めました。所属していたのは、ダイレクト部、というユニクロの直販のビジネスに関わるマーケティング全般を担当する部署です。ユニクロ時代には、オーストラリアのメルボルンでのユニクロブランドの立ち上げに関わらせてもらったり、その後シンガポールに駐在にもなり、シンガポールへ移住するきっかけももらいました。

Mana:日本の企業で働いてみて、これはよかったということがあれば教えていただけますか。

Asia:そうですね、日本の企業はいろんな意味で”オーガナイズ”されているな、と感じます。ここでいう”オーガナイズ”とは、いろんなことが仕組み化されていて、あらかじめ計画をして、その通りに進めていく、また計画がうまくいかなかった時のプランBもあらかじめ考えておく、というようなことです。一概に比較はできませんが、どちらかというと海外の企業は、よくもわるくも様々なことをその場その場で決めていくことが多い気がしいます。そういう意味で、そうした”オーガナイズ”のスキルは日本企業にいたからこそ身につけられたスキルかなと感じています。

起業のきっかけとタイミング

Mana:ユニクロのあと、米系の靴・サンダルブランド・クロックスのE-commerce Marketingの部署での経験を経て、昨年起業されたわけですよね。起業をしたいというのはもともと考えていたことだったのでしょうか。

Asia:そうですね、これを言うと周りの友人にも驚かれることが多いのですが、起業することは以前からの目標でした。というのも、私の両親からは、会社に勤めることよりも、自分で自分の身を立てていくことを以前から進められてきました。日本は、たいていの場合ご両親は大きな会社に入って安定した生活をしてくれということを子どもに臨むケースが多いように思いますが、ポーランドはその点がちょっと異なっています。私の父も起業家なので、そういう部分もあったのかもしれません。

とはいえ、私の場合、社会人になってからはずっと”外国”で過ごしてきました。”外国”に住んで働くにはビザが必要です。近くに家族がいてサポートが得られるわけでもない。そう言う意味で外国人として母国ではない国で起業をすることはいろんな意味で制約やチャレンジが多いと思います。そんな中、私自身シンガポール人の夫と結婚をしたこともあり、ようやく自分が落ち着ける場所、そしてサポートが得られる環境が整いました。自分自身としても、事業をはじめるのに必要なお金をある程度用意できたタイミングだったということもあり、起業をすることができました。その意味では、私がやりたいことを理解して支えてくれている夫にはとても感謝しています。

だんなさまとの出会い、結婚、そして出産。

Mana:お仕事のお話を中心に伺ってきましたが、プライベートの生活のこともお伺いさせてください。シンガポール人のだんなさまとは何がきっかけで出会われたのですか。

Asia:彼とはオンラインデートアプリで知り合ったのがきっかけです。当時、私はユニクロで仕事をしている頃で、その関係でオーストラリアに長期出張中で、もうすぐシンガポールに引っ越す、というようなタイミングでした。逆に彼はシンガポール人ですが、留学で米国にいるという状況でした。オンラインで知り合ったことがきっかけでしたが、すぐに気が合って、まだ直接は会ったことがない中でもオンライン上でよく会話するようになっていきました。その後、お互いがシンガポールに住み始めた(彼の場合は留学後の帰国)タイミングで自然とおつきあいするようになりました。2年間ほどの交際期間を経て一昨年前、私が31歳のタイミングで結婚しました。

Mana:彼との関係を良く保つといううえで、気をつけていることは何かありますか。

Asia:よくコミュニケーションをとる、ということでしょうか。自分自身が感じていること、考えていることを積極的にシェアするように心がけています。それから今回の起業のタイミングもそうでしたが、何か大きな決断をする時には事前に彼にもしっかり話して、彼にも意見をもらうようにしています。

Mana:それから昨年は起業されたのとあわせて、ご自身のお子さんもご出産されましたよね。会社をはじめて、それで出産もして、というのは想像するだけでものすごく大変そうな気がしますが、ご夫婦とのこと、また子育てを含めて、今はどんなライフスタイルを送っていらっしゃいますか?

Asia:子どもはまだ0歳なので、いろいろなことがまだすごくチャレンジングです。特に私の場合、両親が近くにいるわけではないので、両親に助けを求めるわけにはいきません。出産こそ、実家のポーランドに帰って産んだのですが、産後少しだけ実家で休んだ後、すぐにシンガポールに戻ってきました。最初の3ヶ月はすべて自分でやってみようと思ったのですがなかなか難しくて。彼と相談をして、彼の両親に手伝ってもらうことも考えたのですが、とはいっても毎日助けてもらえるわけではない。そんなこともあって、結果的に住み込みのメイドさんを雇うことにしました(※1)。育児は、特に生まれたばかりの頃は特に、1日24時間、週7日間、つきっきりで子どものペースにあわせないといけません。そんな風に”自分のペース”や”自分の時間”をつくることが限りなく不可能な中で、自分の仕事もやっていくというのはすごく大変でした。今はメイドさんを雇ったことで、彼女が掃除や食事の支度また子守もしてもらえて、以前よりは自分の時間や同じ家にはいても、子どもから少し離れて仕事をしたり、ということができるようになってきました。

(※1):シンガポールでは、夫婦共働きが前提で社会のインフラが作られているため、一般的な家庭でも住み込みのメイドさんを雇うことが多くあります。

自分にとって大事なことを大切にしたい。そのための起業。

Mana:Asiaさんが人生の中で大事にしている言葉や価値観みたいなものはありますか。

Asia:はい、人生の中で大切にしている言葉や価値観はいくつが、ひとつ選ぶとすれば、母国ポーランドの言葉 "Szczęśce sprzyja lepszym"です。英語に訳すと "FORTUNE FAVOURS TE BRAVE / YOU HAVE TO BE GOOD TO BE LUCKY"、日本語で言うと「幸運は勇敢な人のもとにやってくる」というような意味になるでしょうか。何事も挑戦、トライして頑張った人がチャンスをつかんでいく、ということを信じています。

それから、今回の起業の背景にもあった自分自身の大きな価値観として『家族との時間を大事にしたい』ということがありました。母国のポーランドを離れて長く、また現在も家族は遠くにいるので、家族と過ごす時間はすごく貴重で大切なものだなと常々感じています。そして自分自身、結婚をして家庭を作っていくということを考えた時に、当時は子どもはまだいませんでしたが、できる限り家族との時間を大切にできるようなライフスタイルを作っていきたいと強く思っていたんです。会社勤めをしていると、勤務時間や休日の数などすべて会社の規定に決められてしまいます。それにあわせて生活をするのではなく、家族との時間を大切にすることを前提として、仕事もしていきたい。そう思った時に、自分で仕事をしていきたいと考えるようになりました。 現在は、夫のサポートがあってこそですが、このような選択ができたことは、自分にとって本当によかったと感じています。

Mana:Asiaさんがこれから取り組んでみたい中長期的な目標やゴールみたいなものは何かありますか。

Asia:そうですね、いつか自分自身のこれまでの人生の経験をまとめた自叙伝のような本を書きたいなと思っています。自分自身がこれまで経験してきたこと、挑戦。そして結婚して、子どもが生まれて、その上で自分の会社を経営するという新たな挑戦のこと。そんな自分のストーリーで、誰かを勇気付けることができたりしたら、すごく嬉しいなと思います。

Mana:Asiaさん、貴重なお話をありがとうございました!

いかがでしたでしょうか。

Asiaさんと知り合ったのは、シンガポールで開催されていたUCLAの同窓会イベントがきっかけ。彼女は学生時代にうCLAに1年間留学経験があり、私は社会人になってからUCLAの社会人向けコースに通っていたことでイベントに参加しており、お互い年齢も近く、また"日本"という共通点もあり、以来シンガポールでの生活の中で親しくさせていただいた友人のひとりです。

彼女のこれまでの人生や現在のことをを改めて伺うと、常に「普通だったら難しいよね」と言われてしまうような状況に”挑戦”し続けている方だなと感じています。新卒で外国人として日本の会社に就職をしたこと(新卒メンバーの中では当時唯一の外国人)、その後日本の大手企業に転職して日本市場向けのマーケティングを担当されていたこと、また今回起業して過去の経験がまったくないモノづくりをゼロから挑戦したこと、そして起業の傍ら第一子のお子さんも生まれ、お仕事を子育てを含めた生活の両立に取り組んでいること。

子育てと起業の両立という点においては、シンガポールに住み込みのメイドさんを雇いやすい社会的な価値観やインフラが整っていることはとても大きいと感じますが、いろんなことをただなんとなく「難しいよね」とか「前例がないよね」といった言葉で片付けられてしまいがちな日本社会において、彼女の生き方はとてもインスピレーションと勇気をもらえる生き方なのではないかと感じています。

インタビュアー・文責:小川麻奈(Girls Bee代表)

 

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